『やさしい日本語』のコミュニケーションを外国語教育のプロが解説します!

Selamat siang, semuanya!

みなさん、こんにちは!
インドネシアのジャカルタ近郊の街チカランで、技能実習・特定技能のための日本語・職業訓練校(LPK)を運営しているHINATA Indonesiaです。

わたしたちは、日本人経営の学校として、他のインドネシア国内におそらく1,000以上あるLPKとは一線を画し、日本就職を目指すインドネシア人の若者に最高品質の教育を提供しています。彼らの夢を叶えることはもちろん、採用していただく企業の皆様にとっても、後悔のない採用にしていただくことが目標です。

そんな我々のこれまでの取り組みをたくさん記事にして紹介してきました。
まだご覧になっていない記事がありましたら、ぜひこちらのリンクからどうぞ!

今回は、これまでのHINATAでの取り組みを紹介する記事とは打って変わり、技能実習や特定技能などの外国人の人材と関わる機会がある企業や登録支援機関、監理団体の皆さんに向けた記事です。

今回のテーマは『やさしい日本語』です。
令和5年の厚生労働省のデータによると、日本には200万人以上の外国人労働者がおり、そのうち約40万人が技能実習、20万人が特定技能の在留資格による外国人労働者です。

コンビニなどで働く留学生の資格外活動と呼ばれるアルバイトや、永住者、技術・人文・国際(通称ギジンコク)などの在留資格とは異なり、日本にいる外国人労働者の3分の1近くを占めている技能実習・特定技能の労働者とコミュニケーションをとるうえで、『やさしい日本語』は欠かせません。

外国人雇用管理主任者の資格を持ち、外国語教育の修士号を修了した外国語教育のプロが『やさしい日本語』のポイントを解説します!今日からすぐに実践できる内容です。ぜひ参考になさってください。

そもそもなぜ『やさしい日本語』が必要なのでしょうか。
まずは、先ほど紹介した技能実習や特定技能と呼ばれる在留資格で滞在している外国人の日本語のレベルを把握する必要があります。

育成就労に切り替わる前の2024年現在においては、技能実習では日本語能力の明確な基準はありません(介護のみN4が必須)。ベトナムやインドネシアなどの東南アジアの国において、現地の送り出し機関と呼ばれる学校で日本語を4ヶ月程度勉強し、日本へ入国します。

4ヶ月間で勉強する日本語は、JLPTと呼ばれる日本語能力を図る試験でいうと、N5程度であることが一般的です。育成就労においても、日本語の基準はN5程度とされています。日本人からすると、このレベルが具体的にどんなレベルで、何ができるのか分かりにくいと思います。

日本語のレベルと、日本人にとって馴染み深い英検やTOEICと比較した下記の表をご覧ください。
N5というレベルは、TOEICでいえば200点から300点程度で、英検4級程度のレベルです。だいたい中学2年生くらいまでに習う英語のレベルをイメージしてください。

また、特定技能においては、人材不足の産業において労働者として即戦力を求めているため、技能実習よりは高めの日本語力が要求されます。具体的には、JLPTではN4レベルの合格が必須となります。また、JFT Basicと呼ばれる別の日本語試験も在留資格申請のために認められており、そちらの合格でも同等のレベルとみなされます。

特定技能で要求されるN4相当のレベルとは、TOEICでは400点程度で、英検では3級程度のレベルです。(中学校卒業程度)
ちなみに高校卒業レベルだと英検2級程度で、これはTOEICに換算すると600点くらいに該当します。

英語のレベルと比較してみると、技能実習や特定技能で日本入国をする外国人の日本語力のレベルが、なんとなくイメージできたのではないでしょうか。

N5相当のレベルでは、正直ほとんど日本語でできることはなく、生活にも支障をきたしてしまいます。中学2年生レベルの英語力で単身アメリカに行って、生活するようなものなので、かなり厳しそうです。N4相当のレベルであれば、聞き取りはまだまだ難しさがかなり残るものの、言いたいことは簡単な言葉を使ってある程度言えるようになります。

なので、実は外国人が一番困るのは会話力ではなく、聞き取りのリスニングスキルなんです。
仕事においても、生活においても、聞き取りができなければ、当然ながらその返答として話すことはできません。

そこで必要になるのが、話し手側が配慮する『やさしい日本語』です。

ここで言うやさしさとは、漢字で書くと『易しい』という意味で、外国人にとってわかりやすい、と言い換えることができます。では、外国人にとってわかりやすい日本語とは、いったいどんな日本語でしょうか。

大きく分けて、アプローチは2つありますので、先にお伝えします。

①外国人に理解する余裕をもたせる

②N4レベルまでで学ぶ文法や言葉をできるだけ使用する

これらのポイントを解説する前に、まずはよく勘違いしてしまう『やさしい日本語』を、面接の場面を例にとって見てみましょう。

この記事を読んでくださっている皆さんも、同じような話し方をしていませんか。

例①助詞の省略

面接官Aさん

会社のこと 今から 説明します。
わたしたちの会社 東京 あります。 でも、皆さん 働く 大阪 それから 愛知 いろいろです。

解説

この場合は、助詞を省いてシンプルに話そうとしています。ですが、助詞を省くと、外国人にとっては余計文章がわかりにくくなってしまうことがあります。

日本語は、ベトナム語やインドネシア語とは異なり、助詞をたくさん使います。説明が長くなるため詳細は省きますが、助詞は全部で4種類あり、それぞれに機能があります。助詞が省略されると、誰が何をするのかという主語と述語の関係がわからなくなってしまうこともあります。
また、単語の順番が変わっても意味が通じる理由も、文脈もありますが、助詞のおかげでもあります。なので、助詞がない文は、外国人にとって単語から意味を想像する必要があるため、逆に難しくなる場合があります。

例②話す順番

面接官Aさん

今までインドネシアでいろいろ仕事をされてきたんですね。喫茶店やレストランなど、いろいろな業種で仕事の経験もたくさんあると思うんですが、今回農業の仕事をやりたい理由を教えてください。

解説

この場合は、農業を志望した理由を聞く前に、これまでの経験を前段として話しています。なので、いちばん聞きたい質問が最後にきています。

日本語は理由を最初に話すことが多いため、このような話し方をする傾向が強いです。最近では、ビジネス場面において、結論ファーストの話し方が求められることも増えていますね。外国人の皆さんは、聞きながら聞き取れた範囲の単語で全体の意味を想像して、内容を理解することになります。肝心の質問の前段階の理由や前提が長すぎると、意味の処理が追いつかなくなり、結果として質問が理解できないことがあります。

例③二重、三重敬語

面接官Aさん

わたしから質問させていただきたいんですが、今回日本での仕事を希望されているとのことで、ご両親は何とおっしゃっておられるか教えていただけないでしょうか。

解説

これは明らかですが、敬語が多すぎて、質問が非常に回りくどくなってしまっています。

二重敬語や三重敬語など、敬語表現を重ねていくことが本当に丁寧なのかどうかの議論もありますが、少なくとも外国人にとってはかなり理解のハードルがあがります。尊敬語として、「Vされている」という形であれば、形から意味が想像できるものもありますが、「おっしゃいます」のように、もともとの動詞「言います」から特別な変化をしているものだと、聞きながら意味を想像するハードルがグッと上がります。ちなみに基本的な敬語はN4レベルで勉強しますが、定着が一番難しい文法の1つです。

例④子どもに話すような話し方

面接官Aさん

じゃあ、農業の経験がインドネシアであって、それで今回うちで働きたいんだね。そうだよね。家族のために、お金もサポートしたいよね。どのくらい日本で働けそうかな。教えてくれる?

解説

これは意味としては伝わる場合もありますが、外国人は基本的に丁寧形(です・ます調)で日本語を勉強しています。
そのため、上記のような友達会話はあまり触れていないことが多いです。

子どもに話すような話し方が倫理的によいかどうかという点も議論がありそうですが、日本人にとってはシンプルに聞こえる友達会話の話し方も、実は外国人にとっては難しく感じることがあります。基本的には「です・ます」調で話した方がわかりやすいです。

『やさしい日本語』で必要な2つのポイントをお伝えします。

①外国人に理解する余裕をもたせる

例えば、例②の質問であれば以下のように言うことができます。

面接官Bさん

どうして農業の仕事をやりたいんですか。

とてもシンプルですが、聞きたいことをダイレクトに聞きます。
1文の中で聞く情報量も基本的には1つにして、外国人が意味を理解できるように1つ1つQ&A形式に進めていくと、スムーズに会話ができます。

そして、その回答の中で、これまでの仕事の経験との関連性の回答が不十分であれば、追加で以下のように聞いてください。

面接官Bさん

どうして喫茶店やレストランではなく、農業がやりたいんですか。

過剰な敬語を使わないという点も、相手に理解する余裕を与えるという点で、共通しています。
敬語を使えば使うほど、どんどん内容が複雑になっていってしまいます。基本的には、「です・ます」調で話すことが有効です。

こういった『やさしい日本語』のポイントは、各自治体などがガイドラインや手引きを作っています。
日本人からすると、なにがやさしくて、何がやさしくないのか、わからない部分もあるかもしれません。ですが、考え方として参考になるので、ぜひ見てみることをオススメします。

参考:在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(出入国在留管理庁・文化庁)

②N4レベルまでで学ぶ文法や言葉をできるだけ使用する

実はこの記事で一番伝えたかったのは、この2点目のポイントです。
外国人が具体的にどんなことを学んでいるのか、それを日本人の皆さんにも知っていただきたいです。

当然ながら、全ての内容を把握するのは難しいと思います。
ですが、これまでどんな日本語を学んできたのか、その経験を理解することで、外国人とコミュニケーションをとる際にも、優しい気持ちで接することができるようになります。

『やさしい日本語』があえてひらがな表記なのは、易しいと優しいの2つの意味があるからですね。

N4レベルで勉強するのに、ほとんどすべての外国人が『みんなの日本語』という教材を使用しています。
勉強する文法や言葉など、以下のページにとてもわかりやすくまとめてありましたので、ご紹介します。どんなレベルのことを学んでいるのか、ぜひ実際に見てみてください。

みんなの日本語 初級1(N5レベル)

みんなの日本語 初級2(N2レベル)

N4レベルの文法や言葉を踏まえて、以下のような内容を外国人に言いたいときは、『やさしい日本語』でどんな伝え方ができるでしょうか。

クイズ形式でやってみましょう。ちなみにサンプルアンサーは、記事の一番下にあります。

【場面:採用面接】

①これまでの職歴や実績を交えて、自己紹介をお願いします。

☆Hint

職歴と実績は別の言葉に言い換えると、スムーズです。

②弊社への志望動機を教えてください。

☆Hint

弊社と志望動機は別の言葉に言い換えるとスムーズです。

【場面:入社後の仕事の説明(食品製造)】

マニュアルを必ず参照してください。

☆Hint

マニュアルは伝わる可能性もありますが、マニュアルが何なのか、やさしい日本語で説明できるとスムーズです。

参照は別の言葉に言い換えるとスムーズです。

業務中に何か疑問や困ったとこがあったら、すぐに上長に相談してください。自分で判断しないで、必ず上長にホウレンソウをしながら仕事を進めてください。

☆業務中と疑問、上長は別の言葉に言い換えるとスムーズです。

判断はわかる場合もありますが、やさしい日本語で説明できるとスムーズです。

ここまでいかがだったでしょうか。

すべてを『やさしい日本語』で話す必要はありませんし、外国人も自分の職場において必要な言葉は当然ながら覚えるべきだと思います。ですが、言葉が通じなくて、疎外感を感じ、結果的に最悪のケースとして犯罪や命に関わる事件に発展してしまうことも、ゼロではありません。

外国人と関わる皆さんができることとして、ぜひ『やさしい日本語』での会話、チャレンジしてみてください。
会話ができる楽しさから、仕事に対してもより積極的に取り組んでくれるようになるかもしれません。

日本は、労働者不足を解決するために、外国人に働いてもらっている立場でもあります。
お互いに気持ちよく働け、グローバル化が進むといいですね。

『やさしい日本語』クイズのサンプルアンサー

①これまでの職歴や実績を交えて、自己紹介をお願いします。

面接官Bさん

自己紹介をお願いします。

(自己紹介が終わったら)これまでどんな仕事をしたか、教えてください。

②弊社への志望動機を教えてください。

面接官Bさん

どうして私たちの会社で働きたいんですか。

マニュアルを必ず参照してください。

面接官Bさん

マニュアルは、仕事のやり方という意味です。

必ずマニュアルを見てください。

業務中に何か疑問や困ったとこがあったら、すぐに上長に相談してください。自分で判断しないで、必ず上長にホウレンソウをしながら仕事を進めてください。

面接官Bさん

仕事をしているとき、困ったことや問題があったら、すぐに部長やリーダーに相談してください。

困ったときや問題があった場合、自分で決めないでください。必ず部長やリーダーにホウレンソウをしてください。