技能実習・育成就労でインドネシアから人材を受け入れるとき、送出機関からのやり取りや書類の中で「E-KTLN」「E-PMI」「E-KPMI」といった言葉を目にすることがあります。名前が次々に変わるうえ、「義務なのか、義務でないのか」という説明も時期によって食い違うため、監理支援機関の担当者が混乱しやすいポイントです。この記事では、インドネシア政府の一次資料に基づいて、この電子カードの正体と最新の位置づけを整理します。
E-KTLNとは何か? 正式名称は「E-KPMI」
日本語圏で「E-KTLN」と表記されるものは、もともとインドネシアの E-KTKLN(=KTKLN〔Kartu Tenaga Kerja Luar Negeri/海外労働者カード〕の電子版。「E-」は電子を意味する) を指す呼び方です。この電子カードは「E-PMI」とも呼ばれてきました。そして2025年、インドネシア政府はこれを制度として整理し直し、現在の正式名称は E-KPMI(Kartu Pekerja Migran Indonesia Elektronik/インドネシア移民労働者電子カード) となっています。
根拠となるのは、移民労働者保護省(KP2MI)が定めた P2MI大臣令 第34号/2025年(Peraturan Menteri Pelindungan Pekerja Migran Indonesia Nomor 34 Tahun 2025) です。同令 Pasal 1 は E-KPMI を「配置国・地域で就労するための要件と手続きを満たしたことを示す、電子形式の証明(bukti bagi Pekerja Migran Indonesia berbentuk elektronik yang memenuhi persyaratan dan prosedur)」と定義しています。
発行元は国(KP2MI/BP2MI)で、移民労働者の配置・保護を管理する行政システム SISKOP2MI を通じて発行されます(Pasal 6 第1項)。カードにはQRコードが付き、2026年3月4日付の 出国配置総局長通達 第366号/2026年(Surat Edaran Nomor 366 Tahun 2026)(2026年3月9日午前0時WIBから適用)により、このQRコードはSISKOP2MIのデータベースとリアルタイムで連携する新様式に統一されました。
| E-KPMIの記載事項(Pasal 3 第1項) | 内容 |
|---|---|
| 氏名(Nama) | 労働者本人の氏名 |
| 旅券番号(Nomor Paspor) | パスポート番号 |
| 出身地(Daerah Asal) | インドネシア国内の出身地域 |
| 配置国・地域(Negara/Wilayah Penempatan) | 就労先の国(日本など) |
| 送出機関(Pelaksana Penempatan) | 手続きを担うP3MI等 |
| 写真・QRコード・有効期限 | 本人写真、照会用QR、カードの有効期限 |
誰が、いつ取得するのか?
P2MI大臣令34/2025 Pasal 5 は、対象者を次の3区分と定めています。①これから海外へ渡航して就労する労働者、②すでに就労中の労働者、③雇用契約(Perjanjian Kerja)を更新する労働者——これらの者は「有効なE-KPMIを所持しなければならない(harus memiliki E-KPMI yang masih berlaku)」とされています。
取得のタイミングと方法は、Pasal 6 が定めています。E-KPMIは、労働者が窓口へ出向いて個別に「買う」ものではありません。登録や必要書類の提出といった 正規の要件・手続きがすべて満たされた後に、国(KP2MI/BP2MI)がSISKOP2MIから電子的に発行します。実務上は、送出機関(P3MI)がSISKOP2MIへの登録・申請を行い、審査を通過すると労働者にE-KPMIが発行される、という流れになります。
この省令は 2025年11月28日に制定、同年12月3日に公布され、公布日から施行されています(Pasal 15)。つまり2025年12月以降にインドネシアから送り出される人材は、この枠組みの対象です。
取得しないと、渡航はどうなるのか?
ここが最も誤解されやすい点です。E-KPMI(E-KTLN)は、渡航に必須の書類そのものではありません。インドネシアの移民労働者保護法 UU 第18号/2017年 Pasal 13 は、海外配置に際して労働者が備えるべき書類を a〜h で列挙していますが、そこにE-KPMIやKTKLNは含まれていません。列挙されているのは、婚姻状況証明、配偶者・親・後見人の同意書、技能証明(sertifikat kompetensi kerja)、健康・心理診断書、旅券、就労ビザ(Visa Kerja)、配置契約(Perjanjian Penempatan)、雇用契約(Perjanjian Kerja)の8点です。
では所持しなくてよいかというと、そうではありません。前述のとおりPasal 5で「有効なE-KPMIを所持しなければならない」と定められた以上、E-KPMIが無い=SISKOP2MIへの登録という正規手続きが完了していないことを意味します。この場合、その人材は国が把握・保護する正規(prosedural)の移民労働者としては扱われず、国の保護の枠組みから外れる 非正規(unprosedural)ルート とみなされるおそれがあります。トラブル時に本国政府の支援が及びにくくなるのは、受け入れる日本側にとってもリスクです。
逆に言えば、送出機関が正しく手続きしていれば、E-KPMI(E-KTLN)はシステムを通じて発行されます。取得に伴う費用は少額で、実際の送出フローでは、本人負担の立替実費としてRp 200,000程度(約1,800円)が費用内訳に計上される例があります。かつてのKTKLN(実物カード)が出国時の不当徴収の温床と批判された経緯を踏まえ、現在は電子化・手続きの一体化と費用の透明化が進められています。
なぜ名前が何度も変わったのか? KTKLNからE-KPMIまでの経緯
「E-KTLN」「E-KTKLN」「E-PMI」「E-KPMI」と呼び名が混在するのは、この制度が10年以上かけて何度も作り替えられてきたからです。
出発点は KTKLN(Kartu Tenaga Kerja Luar Negeri) という実物カードでした。旧法である UU 第39号/2004年 の下で所持が求められ、出国時の提示を巡って労働者の負担・不当徴収の温床だと批判されました(このKTKLN規定は憲法裁判所判決 6/PUU-XIII/2015 でも争われています)。2014年11月30日、ジョコ・ウィドド大統領が労働者との対話でKTKLNの廃止を表明し、以後カードは電子化され E-KTKLN(=E-PMI)へと移行しました。
2017年、UU 第18号/2017年が2004年法を全面改正します。この新法の条文にKTKLNという語はもはや登場せず、渡航必須書類を定めるPasal 13にも含まれていません。そのため 2023年時点では、BP2MI自身が「E-KTKLN/E-PMIは義務書類ではなく、システム上の登録に過ぎない」と説明していました(2023年7月24日付 書簡 B.704/KA/PP.03.04/VII/2023)。
その後、制度は再び強化されます。2025年のP2MI大臣令34号でE-KPMIとして整理し直され、Pasal 5で有効なカードの所持が求められる枠組みになりました。さらに 2026年の通達366号で全国の様式が統一されています。「義務ではない」という過去の説明と、現在の運用が食い違って見えるのは、この2023年→2025年の制度変更が背景にあります。
| 時期 | 名称 | 形態 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 〜2014年 | KTKLN | 実物カード | UU 39/2004 |
| 2014年〜 | E-KTKLN/E-PMI | 電子(システム登録) | 電子化・BP2MI運用 |
| 2025年12月〜 | E-KPMI | 電子カード | Permen 34/2025 |
| 2026年3月〜 | E-KPMI(新様式) | 電子カード | SE 366/2026 |
監理支援機関は何を確認すればいいのか?
育成就労・技能実習でインドネシア人材を受け入れる監理支援機関にとって、E-KPMIは「送出機関がインドネシア側の正規手続きを完了させたか」を映す鏡です。実務では、次の点を送出機関(P3MI/認定送出機関)に確認しておくと安心です。
- 候補者が SISKOP2MI に登録され、E-KPMI(旧E-PMI)が発行される正規ルートであること
- E-KPMIの 有効期限 と、QRコードでの照会が可能か
- 旅券・就労ビザ・雇用契約など、UU 18/2017 Pasal 13 の書類とE-KPMIの記載が整合しているか
- 配置国が「日本」、送出機関名が契約先と一致しているか
E-KPMIが用意できない、あるいは発行を確認できない場合は、非正規ルートの疑いがあります。その人材が本国の保護対象から外れると、就労後にトラブルが生じた際の対応が難しくなり、受入れ側の監理支援機関・受入企業にとってもリスクとなります。名前が変わっても役割は一貫しており、「正規に手続きされた人材である」ことの電子的な証明——それがE-KTLN、すなわち現在のE-KPMIです。
出典
- インドネシア移民労働者保護省 P2MI大臣令 第34号/2025年(Peraturan Menteri Pelindungan Pekerja Migran Indonesia Nomor 34 Tahun 2025 tentang Kartu Pekerja Migran Indonesia Elektronik)/JDIH BP2MI
- 出国配置総局長通達 第366号/2026年(Surat Edaran Nomor 366 Tahun 2026 tentang Penyesuaian Tampilan dan Format Kartu Pekerja Migran Indonesia Elektronik)/JDIH BP2MI
- 2017年法律第18号 インドネシア移民労働者保護法(Undang-Undang Nomor 18 Tahun 2017 tentang Pelindungan Pekerja Migran Indonesia)Pasal 13
- インドネシア労働省(Kementerian Ketenagakerjaan)ヘルプ「Apa itu e-KTKLN dan mengapa ini diperlukan?」
- インドネシア国家官房(Sekretariat Negara)「KTKLN Dihapus」(2014年)
- 憲法裁判所判決 6/PUU-XIII/2015(UU 39/2004 のKTKLN規定に関する違憲審査)
※本記事は2026年8月24日時点で公表されている資料に基づいています。制度の詳細は変更される可能性があります。個別の申請にあたっては最新の手引きと専門家にご確認ください。
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