育成就労では、同じ受入企業で1年または2年を超えて働き、技能と日本語の試験に合格すれば、本人の意向で転籍できます。
「育成就労では、実習生が1年で転職できてしまうのか」。監理団体(2027年4月からは監理支援機関)や受入企業の方からよくいただく質問です。答えは「条件つきで、できる」です。転籍の種類・条件・手続・費用の分担を法律・施行規則・分野別運用方針・出入国在留管理庁(入管庁)のQ&Aで整理し、最後に送出機関である当校(PT. LPK HINATA Indonesia)の運用を書きます。
育成就労の転籍には2種類ある
法律の条文では「育成就労実施者の変更」と書かれ、入管庁の資料で「転籍」と呼ばれています。種類は2つです。
| 種類 | どういう場合か | 根拠 |
|---|---|---|
| やむを得ない事情による転籍 | 本人の都合以外の理由で継続が困難になった、受入企業(育成就労実施者)の雇用契約の重大な違反、暴行・脅迫その他の人権侵害、出入国・労働法令の不正・著しく不当な行為などがある場合。就労期間や試験の要件はない | 法 第9条の2第4号ただし書、施行規則 第25条 |
| 本人の意向による転籍 | 本人が希望し、①転籍元での就労期間、②技能・日本語、③転籍先の要件を満たす場合。育成就労制度で新設 | 法 第9条の2第4号イ〜ハ、施行規則 第26〜28条 |
どちらでも、転籍先の業務の技能と育成就労産業分野は従前と同一で(法第9条の2第3号、入管庁Q&A「同一の業務区分内に限られます」)、育成就労の期間は通算で3年以内(延長時は4年以内)です(同条第2号)。
本人の意向による転籍の条件(就労期間・技能・日本語・転籍先)
条件は、転籍先が作る育成就労計画の認定基準として定められています。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①転籍元での就労期間 | 分野別運用方針が「1年以上2年以下」の範囲で定める転籍制限期間を超えていること。2年の分野でも、受入企業が育成就労計画で1年と定めれば1年 | 法 第9条の2第4号イ、施行規則 第26条 |
| ②技能 | 技能検定基礎級、または各分野の育成就労評価試験(初級)に合格(育成就労1年経過時と同じ水準) | 法 第9条の2第4号ロ、施行規則 第27条第1号、分野別運用方針 第三の3(1)ア |
| ③日本語 | 「日本語教育の参照枠」のA2.1相当以上の試験に合格。介護と鉄道の運輸係員はA2.2相当以上 | 施行規則 第27条第1号、分野別運用方針 第三の3(1)イ |
| ④転籍先の要件 | 育成就労外国人を受け入れ中で、「技能を修得させる能力につき高い水準を満たす」こと(入管庁Q&A:「優良な育成就労実施者」) | 施行規則 第28条第1号・第3号(第19条第1項第2号) |
| ⑤転籍者の割合 | 本人意向の転籍者が育成就労外国人の総数の3分の1以下。転籍先が大都市圏等(告示の指定区域外)なら、地方からの転籍者は6分の1以下(1人の場合を除く) | 施行規則 第28条第2号 |
①の転籍制限期間は、2026年1月23日閣議決定の分野別運用方針で次のとおりです。
| 転籍制限期間 | 分野 |
|---|---|
| 2年(8分野) | 介護、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環 |
| 1年(9分野) | ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業 |
2年と定める受入企業は、就労開始から1年経過後に、転籍の制限を理由とした昇給などの待遇向上を図らなければなりません(基本方針 第四の2(1)エ。具体策は分野別運用方針 第三の3(3))。1年と定めればこの義務はかかりません。
技能実習の転籍と何が違うか
技能実習制度では、本人の意向による転籍(実習実施者の変更)は認められず、「やむを得ない事情」がある場合に限られていました。入管庁Q&Aも、育成就労では「技能実習制度から引き続き」やむを得ない事情による転籍を認めるほか、「新たに、一定の要件の下、本人の意向による転籍も認める」と説明しています。もう一つの違いは、転籍支援が法律と基本方針に書かれたことです。「転籍支援はまずは監理支援機関が中心となって行いつつ」外国人育成就労機構とハローワークが連携し、転籍への不当な制限や、申出を理由とする解雇などの不利益な取扱いは認められません。
転籍の手続きの流れと、監理支援機関・受入企業がやること
流れは次のとおりです。詳細は運用要領(令和8年8月版)第4章第3節「育成就労実施者の変更等」にあります。
- 本人が書面で申し出る:申出先は、受入企業(監理型育成就労実施者)、その監理支援機関、出入国在留管理庁長官・厚生労働大臣(受理は機構)のいずれかです(法第8条の2第1項、第8条の3)。申出書に氏名・国籍・生年月日、希望する実施者、理由を書きます(施行規則第10条)。
- 受入企業は監理支援機関へ、監理支援機関は機構へ:受入企業は遅滞なく監理支援機関に通知し(法第8条の2第3項)、監理支援機関は遅滞なく機構に届け出ます(同条第6項・第7項)。届出には本人の「現状」と「育成就労の継続のための措置」も書きます(施行規則第11条)。
- 監理支援機関が転籍先を探す:連絡調整、職業紹介その他の必要な措置を講じる義務があり(法第8条の4第5項)、機構も相談対応・職業紹介などの援助を行います(同条第3項)。民間の職業紹介や求人サイトを使うと、転籍先の計画は認定されません(施行規則第28条第4〜6号)。
- 転籍先が新しい育成就労計画を作り、機構に認定申請する(法第8条の5第1項、入管庁Q&A Q48)。計画には転籍元の名称、転籍元での就労期間、通算の期間を記載し(同条第2項第3〜5号)、前の章の条件で審査されます。認定後、在留の手続を経て就労を再開します。
受入企業(転籍元)がやることは、申出を遅滞なく監理支援機関に伝える、申出を理由に不利益な取扱いをしない、2年の設定なら1年経過後の待遇向上策を実施する、の3つです。
転籍したときの費用はどうなるか
本人の意向による転籍では、転籍先が転籍元に、「育成就労外国人の取次ぎ及び育成に係る費用として法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める額」に転籍元での就労期間に応じた比率を乗じた額(1,000円未満切り捨て)を支払うことが、計画の認定基準です(施行規則第28条第7号イ)。転籍元の初期費用を転籍先が一定以上負担する仕組みです(入管庁Q&A)。
| 転籍元での就労期間 | 告示額に乗じる比率 |
|---|---|
| 1年以上1年6か月未満 | 6分の5 |
| 1年6か月以上2年未満 | 3分の2 |
| 2年以上2年6か月未満 | 2分の1 |
| 2年6か月以上 | 4分の1 |
告示の額は、入管庁Q&A(Q54)で「この告示は今後制定する予定です」とされ、執筆時点で入管庁の関係法令ページにも掲載がありません。転籍元自身が転籍で受け入れていた場合は別の比率です(同号ロ)。送出機関との契約上の費用(送出管理費など)はこの仕組みとは別です。
送出機関の側で、転籍が起きにくい送り出しのためにしていること
転籍は本人を守る制度なので、送出機関が止めることはできませんし、すべきでもありません。できるのは、入国前のミスマッチをなくし、「移りたい」と思う理由を減らすことです。当校(設立2024年4月、2年間で210名を送出)がしていることは4つです。
- 希望職種・勤務地・寮の条件を聞き取り、求人票と突き合わせる:面接の前に、希望する仕事、都市か地方か、寮の形態、合わない人はその求人に紹介しません。「聞いていた話と違う」が転籍の入口になるからです。
- 日本語を800時間・6か月、全対面・全寮制で教える:到達目標はA2(法令の入国時要件はA1、JLPT N4は必須)です。目的は、職場で困ったときに自分の言葉で上司や監理支援機関に相談できるようにすること。相談できれば「黙って辞める」ではなく「話し合う」が選べます。
- 生活と手取りを数字で説明する:税金・社会保険料・寮費を引いた手取りの目安、物価、寮のルールを出国前に本人に説明します。
- 入国後も本人と連絡を取り続け、職場や生活の不安を早い段階で監理支援機関に共有します。
転籍が起きたときは、次のように対応します。監理支援機関から連絡を受けたら、当校は本人にインドネシア語で事実関係と希望を確認し、監理支援機関に共有します。「やむを得ない事情」を訴えている場合は申出を妨げず、手続に委ねます。条件をまだ満たしていない場合は、いつ・何を満たせば転籍できるかを本人に説明し、職場で解決できることを監理支援機関と探します。当校の送出者は、入国後の退職・転職0名、途中帰国・失踪0件です。
よくある質問
Q. 育成就労の外国人は、1年たてば自由に転職できるのですか?
自由ではありません。本人の意向による転籍には、同じ受入企業で分野ごとに定める1年または2年を超えて働き、技能検定基礎級または育成就労評価試験(初級)と日本語A2.1相当以上(介護はA2.2相当以上)に合格し、転籍先が要件を満たすことが必要で、同一の業務区分内に限られます。暴行などやむを得ない事情がある場合は別です。
Q. 転籍制限期間が2年の分野はどこですか?
介護、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環の8分野が2年、ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業の9分野が1年です(分野別運用方針)。2年の分野でも、受入企業が育成就労計画で1年と定めることができます。
Q. 転籍されたら、受入企業が払った初期費用はどうなりますか?
本人の意向による転籍では、転籍先が転籍元に、法務大臣・厚生労働大臣が告示で定める額に転籍元での就労期間に応じた比率(1年以上1年6か月未満なら6分の5、2年6か月以上なら4分の1など)を乗じた額を支払います。告示の額は、入管庁のQ&Aによると今後制定の予定です。
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出典
- 外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律(令和6年法律第60号による改正後、2027年4月1日施行)第8条の2、第8条の3、第8条の4、第8条の5、第9条の2 ― e-Gov法令検索(施行日時点の条文)
- 外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律施行規則(令和7年9月30日 法務省・厚生労働省令第4号)第10条、第11条、第25条〜第28条 ― 公布時の官報(PDF)
- 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針及び育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する基本方針(令和7年3月11日閣議決定)第四の2(1)エ ― 出入国在留管理庁(PDF)
- 各分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針(令和8年1月23日閣議決定)第三の3(本人の意向による転籍) ― 出入国在留管理庁「基本方針・分野別運用方針」
- 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」Q47〜Q54(転籍) ― 出入国在留管理庁
- 出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」(令和8年7月改訂) ― 出入国在留管理庁(PDF)
- 出入国在留管理庁「育成就労制度の関係省令等について」(概略図) ― 出入国在留管理庁(PDF)
- 出入国在留管理庁・厚生労働省「育成就労制度 運用要領」(令和8年8月版)第4章第3節 育成就労実施者の変更等 ― 出入国在留管理庁(PDF)
- 出入国在留管理庁「転籍手続中の技能実習生に対する在留管理制度上の措置について」 ― 出入国在留管理庁
※本記事は2026年10月17日時点で公表されている資料に基づいています。制度の詳細は変更される可能性があります。個別の申請にあたっては最新の手引きと専門家にご確認ください。
この記事で参照した公式情報
| 機関 | 資料・ページ |
|---|---|
| e-Gov 法令検索 | e-Gov法令検索(施行日時点の条文) |
| 出入国在留管理庁・法務省 | 公布時の官報(PDF) |
| 出入国在留管理庁(PDF) | |
| 出入国在留管理庁「基本方針・分野別運用方針」 | |
| 出入国在留管理庁 | |
| 出入国在留管理庁(PDF) | |
| 出入国在留管理庁(PDF) | |
| 出入国在留管理庁(PDF) | |
| 出入国在留管理庁 |
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